名門・音羽屋の屋号を背負う家系に生まれながら、尾上松也の歩みは決して順風満帆なエリートコースではなかった。2005年、師であり精神的支柱であった父・尾上松助が他界。まだ若手の一役に過ぎなかった青年は、突然一門の看板と弟子たちを背負う過酷な現実に放り出された。
役がつかない日々。劇場ロビーに立ち尽くす屈辱。それでも彼は歩みを止めなかった。自主公演『挑む』を立ち上げ、自主プロデュースで歌舞伎の面白さを世に問う泥臭い営業を続けた。伝統芸能という巨大な歴史の中で生き抜くために選んだのは、待つことではなく、自ら仕掛けることだった。そのハングリー精神こそが、現在の松也を形作る原点だ。