「山の天気は下から見上げるものではなく、上空の空気のうねりから見下ろすものだ」――そう語り、国内の山岳気象予報の第一線に立ち続けているのが株式会社ヤマテンの代表・猪熊隆之氏だ。数々の高所遠征や遭難現場を知る専門家として、猪熊氏は白馬岳特有の西風の抜け方や、日本海からの寒気の流入速度に常に鋭い警鐘を鳴らし続けている。
一般的な天気予報と一線を画す専門的な山岳気象予報は、等圧線の間隔だけでなく、上空5,000メートル付近の寒気コアの位置や前線の微細な揺らぎを緻密に解析する。猪熊氏らが提供する情報は、単なる降雨の有無ではなく「何時何分に稜線で風速が跳ね上がるか」「雲底高度がどこまで下がるか」という、登山者の行動判断に直結する生きた指標だ。このプロフェッショナルの分析に耳を傾けるかどうかが、退却の決断を分ける。