調剤薬局の現場や医療相談窓口に寄せられる声の中で、近年特に目立っているのが「マルチビタミンを飲んでいるのに、追加で個別の美容サプリを飲んだら体調を崩した」というトラブルです。ある30代女性は、疲労回復のためにベースサプリとして総合ビタミン・ミネラル剤を飲みつつ、美肌目的でビタミンC、貧血対策で鉄・亜鉛サプリ、さらに目の疲労用サプリを併用していました。その結果、数週間後に激しい胃痛と吐き気に襲われ、血液検査で肝機能数値の悪化と過剰なミネラル血症が確認される事態に至りました。
SNSや健康相談コミュニティでも、「亜鉛サプリを精力増強や美髪のために規定量の2倍飲んでいたら、激しい立ちくらみと倦怠感が続き、病院で重度の銅欠乏による貧血と診断された」という告白が散見されます。体内のミネラルバランスは非常に繊細で、亜鉛を過剰に摂取すると、小腸粘膜でメタロチオネインというタンパク質が誘導され、これが銅と強力に結合して体外へ排出させてしまいます。善意の自己投資が、結果として別の必須微量元素を枯渇させる引き金になるのです。
こうした健康被害を防ぐため、厚生労働省サプリメントガイドライン(日本人の食事摂取基準)では、各栄養素に「推奨量」だけでなく、健康障害をもたらすリスクのない上限値である「耐容上限量(UL)」を定めています。マルチビタミンはすでに1日分の推奨量を網羅しているケースが多いため、そこに単一成分を重ねる行為は、常に過剰摂取の境界線を踏み越えるリスクを伴っている事実を認識しなければなりません。