現在、業界を牽引する最大の拠点がアルコー延命財団だ。重厚なセキュリティを抜けた先にある処置室は、一般的な大学病院の手術室と見紛うほどの高度医療機器で埋め尽くされている。彼らが行うのは、単に遺体を冷凍庫に入れる作業ではない。「ガラス化(Vitrification)」と呼ばれる高度な化学的プロセスの実行だ。
水は凍ると体積が膨張し、鋭利な氷の結晶が細胞膜をズタズタに引き裂く。これを防ぐため、患者の体内から血液を抜き取り、高濃度の凍結保護剤を段階的に循環注入する。液体を凍らせるのではなく、粘度を極限まで高めてガラスのような非晶質固体へと変化させる技術だ。この処置を経て、マイナス196度の液体窒素タンクへと静かに吊り下げられる。
当然ながら、未来への搭乗券は決して安くない。全身の保存にはおよそ22万ドル(約3,300万円以上)、脳のみを残す神経保存(ニューロ)であっても約8万ドルが必要とされる。大金だが、多くの会員は自身の生命保険の受取人にアルコーを指定することでこの費用を捻出している。富豪だけの道楽ではなく、ごく普通の中産階級の人々が自らの「保険」としてこの選択肢を買っているのが実態だ。