中世ヨーロッパに端を発する人狼伝説の原典を紐解くと、実は最初期から満月だけが変身の絶対条件だったわけではない。魔女裁判の記録や民間伝承では、狼の毛皮を身に纏う儀式や特定の軟膏を塗布することによって狼に変じる事例も多く報告されていた。
しかし、天文学における月相の満ち欠けが人間の潮汐リズムや情動に影響を与えるという古代からの信仰と結びつくことで、満月は狂気と変容を司る究極の引き金として定着した。満ちる光が隠された本性を暴き出すという象徴性は、物語作家たちにとってこの上なく劇的な舞台装置だったのだ。