「魚偏に春と書くのだから、鰆の旬は春に決まっている」と考える人は少なくありません。しかし、水産物流通や魚河岸の常識において、この認識は半分正しく、半分は誤りです。実は関東と関西でサワラの旬時期の定義は真っ二つに分かれています。
関西において尊ばれるのは、4月から5月にかけての「春鰆」です。瀬戸内海で水揚げされるこの時期のサワラは、身だけでなく「真子(卵巣)」や「白子(精巣)」が発達しており、これらを含めて春の味覚として愛でる歴史が定着しています。脂質含有量は5〜8%程度と比較的あっさりしており、上品で繊細な身質が特徴です。
対照的に、関東で圧倒的な高値で取引されるのが12月から翌2月にかけての「寒鰆(かんざわら)」です。産卵を前に外洋でたっぷりと餌を食べ、冷たい海水から身を守るために蓄えた脂は、マグロのトロに匹敵する脂質含有率15%超を記録することもあります。豊洲市場の仲卸関係者も「刺身や生食で圧倒的な旨味ととろける食感を求めるなら、真冬の寒鰆一択」と証言します。