漢文訓読における「返り点」は、日本語と中国語(漢文)の語順の違いを埋めるために、平安時代から連綿と開発されてきた高度な記号体系です。その中で「天地人点」は、返り点優先順位において最高峰に位置する記号として定義されています。
なぜこのような特殊な点が必要になるのでしょうか。その理由は、漢文の文構造が極度に長く、複雑になった際の「入れ子の深さ(ネスト構造)」にあります。返り点には明確な階層ルールが存在し、同一の階層記号を一つの文節内で二重に使って戻ることは原則として許されません。
たとえば、「一二点」で戻る範囲の外側をさらに跨いで戻る必要がある場合、ワンランク上の「上中下点」を使います。さらにその「上中下点」の外側を跨ぐ必要が生じたときには「甲乙丙点」を用います。そして、「甲乙丙点」ですら収まりきらないほど巨大な複文や重層構造を跨ぐ最終手段として登場するのが「天地人点」なのです。
読む順番は非常にシンプルで、「天点」の付いた漢字から「地点」の付いた漢字へ、さらにその先があれば「人点」の付いた漢字へと順に返ります。決して「人」から読んだり「地」から読んだりすることはありません。ただし、天点がついている漢字そのものを無条件に真っ先に読むのではなく、その漢字に到達する前に内部の下位返り点(一二三点やレ点など)をすべて読み終えていることが大前提となります。