2013年に公開された映画『舟を編む』は、国内の映画賞をことごとく席巻しました。第37回日本アカデミー賞において、最優秀作品賞、最優秀監督賞(石井裕也)、最優秀主演男優賞(松田龍平)、最優秀脚本賞(渡辺謙作)、最優秀録音賞、最優秀編集賞の主要6部門で最優秀賞を獲得したほか、キネマ旬報ベスト・テン第1位など、その年の映画賞の頂点に立ちました。
当時若干30歳だった石井裕也監督が描いたのは、単なる地味なデスクワークの再現ではありませんでした。「紙の手触り」「ペンの走る音」「インクの匂い」といったアナログな質感を徹底的にフィルムに焼き付け、言葉という目に見えない概念を映像表現として昇華させたのです。
実際の撮影にあたっては、辞書出版の大手である三省堂や岩波書店などの実際の辞書編集現場を徹底取材。劇中に登場する数十万枚に及ぶ用例採集カードや資料の山はすべて本物の質感にこだわって美術スタッフが制作したものであり、そのリアルな空気感が俳優陣の真摯な演技をさらに引き出しました。