スバル水平対向エンジンの真価を正しく把握するには、長所だけでなく構造的宿命とも呼べる短所にも目を向けなければなりません。物理的アドバンテージと引き換えに背負ったトレードオフは、日常の使い勝手やメンテナンス性において如実に現れます。
主なメリットとしては、クランクシャフトを中心に左右対称に重量物が配置されることによる「卓越したステアリングレスポンス」、ピストン同士が振動を打ち消すためバランサーシャフトを必要としない「滑らかなエンジンフィール」、そしてエンジン全高の低さによる「視界性能の確保」が挙げられます。一方でデメリットは、エンジンルームの横幅限界までシリンダーヘッドが迫るため「スパークプラグ交換やバルブ周りの整備工賃が高額になりやすい点」、左右の排気管の取り回しが複雑化する点、そして構造的に熱効率の最適化に高度な技術が求められる点です。
ここで興味深いのが、同じ水平対向エンジンを極め続ける独ポルシェとの設計思想の違いです。両社のボクサーエンジンを比較すると、同じ構造を用いながらも目指すベクトルがまったく異なることが浮き彫りになります。
ポルシェが採用する水平対向エンジンは、高G旋回時でも油膜切れを起こさない複雑な「ドライサンプ潤滑方式」や高回転型ショートストローク設計を採り、価格を度外視して極限のピュアスポーツ性能を追求しています。対照的にスバルは、量産実用車としての製造コストや耐久性を維持しながら、フロントにエンジンを縦置きしてそのままプロペラシャフトを後方へまっすぐ伸ばすレイアウトを採用しました。豪雪地帯や悪路での確実な脱出性、雨の高速道路での絶対的なスタビリティを日常的な価格帯で提供する点において、スバルのボクサーはポルシェとは似て非なる「実用安全思想の極致」と言えます。