皮膚がんの脅威は、「顔や腕の目立つ黒いホクロ」だけに留まりません。むしろ、患者自身が皮膚がんを連想しにくい特異な部位や非典型的な色調こそ、診断遅延を招く最大の盲点となっています。
日本人のメラノーマにおいて最も頻度が高いタイプが「末端黒子型(まったんこくしがた)」であり、その主戦場となるのが皮膚がん 足の裏のホクロです。欧米の白人層では体幹や四肢のメラノーマが主流ですが、紫外線感受性が異なる日本人では、全メラノーマの約30〜40%が足底や足の指、さらには手のひらや爪部に集中します。足の裏は日常的に体重による激しい機械的刺激や摩擦にさらされており、これが細胞変異の誘因の一つと目されています。「靴擦れによる血豆」「ただのタコやウオノメの黒ずみ」と思い込み、数年間放置した結果、歩行困難になって初めて来院する事例が後を絶ちません。爪に生じる場合は、根元から爪先に向かって伸びる「黒褐色の縦条(黒い筋)」として現れ、次第にその幅が広がり爪周囲の皮膚(後爪郭)まで色素が漏れ出します(ハッチンソン徴候)。
また、高齢者の顔面に頻発するのが「治らない湿疹」に擬態する病変です。日光を浴び続けた頬や額に、薄い赤みを帯びたカサカサした斑点が生じることがあります。市販の保湿軟膏やステロイド外用薬を塗っても数カ月間にわたって一向に改善しない皮膚がん 顔の湿疹のような病変は、有棘細胞癌の早期前駆病変である「日光角化症」や、表皮内にとどまる早期がん「ボーエン病」を強く疑う必要があります。表皮の最浅層にある段階であれば、液体窒素を用いた凍結療法や外用抗がん剤(イミキモドクリーム)による切除を伴わない根治が可能です。
さらに危険なのが、色素を作らない皮膚がん 赤いできもの(無色素性メラノーマ)の存在です。メラノーマ全体の約2〜8%において、悪性メラノサイトがメラニン色素を生成する能力を失い、見た目は鮮やかなピンク色や赤色のドーム状結節を呈します。肉眼では血管腫や化膿した毛嚢炎、良性の線維腫と見分けがつかず、皮膚科専門医であっても肉眼観察のみでは鑑別が困難を極めます。「黒くないから皮膚がんではない」という固定観念こそが、発見を致命的に遅らせる最大の落とし穴です。