「尾上右近の家系図が凄すぎる」と囁かれる最大の理由は、歌舞伎界の名門・音羽屋の本流と、昭和日本映画の黄金期を築いた大スターのDNAが、一身に集約されている点にあります。右近の血統を整理すると、父方と母方の双方が芸能史の頂点に君臨していたことが一目で分かります。
父方の系譜を遡ると、近代歌舞伎の最高峰と評され、今なお役者たちの規範とされる六代目尾上菊五郎に行き着きます。六代目菊五郎の娘である多恵子が、清元節の家元である六代目清元延寿太夫のもとへ嫁ぎました。その間に生まれたのが、右近の実父である現・七代目清元延寿太夫です。つまり、尾上右近にとって六代目菊五郎は「曾祖父(ひいおじいさん)」にあたります。七代目尾上菊五郎(人間国宝)や寺島しのぶ、八代目尾上菊五郎を襲名した面々とは、同じ曾祖父の血を分けた親族(はとこ等の関係)にあたります。
一方、母方のルーツは映画ファンならずとも息を呑む大看板です。母親である矢野真佐子氏の実父は、東映任侠映画や数々の名作ドラマで国民的人気を誇った名優・鶴田浩二。右近自身、幼少期から周囲に「祖父・鶴田浩二」の影を感じて育ちました。当時の特番インタビューや手記において右近は、「物心ついた頃には祖父は亡くなっていましたが、母の口から語られる祖父のダンディズムや男の美学は、私の表現者としての背骨になっている」と述懐しています。銀幕のスターが放った憂いのある色気と、歌舞伎の神様が遺した圧倒的な身体表現の才が、二代目尾上右近というひとりの表現者の中で結実したと言っても過言ではありません。