SNSやネット掲示板などでは、バードストライクに関して二つの極端な誤解が散見されます。一つは「鳥一羽ぶつかっただけで、現代のハイテク飛行機がすぐに墜落してしまうのではないか」という過剰な恐怖。もう一つは「何百トンもある巨大機なのだから、鳥くらい巻き込んでもミンチになって終わりで何の影響もない」という根拠のない過小評価です。
現場の航空安全の観点から言えば、この双方はどちらも明らかな誤りです。
まず、「鳥が衝突したからといって即座に墜落することはない」というのが航空工学の揺るぎない事実です。現代の民間旅客機はすべて、片方のエンジンが完全に故障・停止した場合でも、もう一方の健全なエンジンだけで安全に飛行を継続し、最寄りの空港へ着陸できるように設計されています。これを「双発機の安全基準(ETOPS等)」と呼び、パイロットもシミュレーターで片発停止時の操縦訓練を徹底的に叩き込まれています。
一方で、「鳥など粉々になるから問題ない」という軽視も極めて危険です。たとえエンジンが爆発しなくとも、ファンブレードの微細な歪みは高速回転時に異常な振動を引き起こし、そのまま飛行を続ければエンジンが脱落したり油圧パイプを傷つけたりする二次災害に発展します。さらに、衝突した部位がコックピットのフロントガラス(風防)だった場合、複層構造の頑丈なアクリルガラスに激しいヒビが入り、パイロットの前方視界が奪われるリスクもあります。
客室に乗っている乗客が「ドン」という鈍い衝撃音を感じたり、空調を通じてローストされたような焦げ臭い匂いを感じたりした場合、機長は安全を最優先して離陸を中止(RTO)するか、目的地を変更して出発空港へ引き返す判断を下します。これはパニックを起こしたからではなく、冷徹なリスク管理マニュアルに基づいたプロフェッショナルの手順なのです。