刑事裁判の実務家や研究者の間で激しい議論を呼び続けているのが、通称「かすがい現象」と呼ばれる判例法理です。「かすがい(鎹)」とは、2つの材木をつなぎ止めるコの字型の釘のこと。本来ならバラバラであるはずの犯罪が、真ん中にある別の犯罪を介して1つに連結されてしまう現象を指します。
最高裁判所昭和29年5月27日判決の事案をもとに解説します。例えば、次のような3つの罪(A罪・B罪・C罪)があったとします。
- 犯人は被害者を脅迫して金を奪おうとした(A罪:恐喝未遂罪)。
- 犯人は金銭強取のために監禁を継続していた(B罪:逮捕・監禁罪)。
- 犯人は監禁の現場で見張り役をしていた共犯者と揉め、殴って怪我をさせた(C罪:傷害罪)。
この場合、A罪(恐喝未遂)とB罪(監禁)は手段・結果の関係にあるため「牽連犯」です。一方、B罪(監禁)とC罪(傷害)は同一場所での監禁継続中の暴行として「観念的競合」にあたると判断されました。しかし、A罪(恐喝未遂)とC罪(傷害)の間には、手段・結果の関係もなければ行為の同一性もありません。本来であれば、A罪とC罪は独立した「併合罪」として重く加重処断されるはずです。
ところが判例は、「B罪がかすがいとなって、A・B・Cの全罪が科刑上一罪として結びつき、全体の中で最も重い刑で処断される」と判示しました。つまり、併合罪加重が排斥され、被告人に有利に働く結論を導いたのです。
この解釈に対しては、「B罪という中間項が存在するだけで、本来併合罪として厳罰に処されるべきA罪とC罪の刑が軽くなるのは不当だ」「偶然の連鎖で量刑が歪む」という強い批判が学説から寄せられています。法廷の検察官からも「処罰感情や実質的量刑の観点から違和感が残る」との声が根強く、罪数論が単なる机上の空論ではなく、実際の量刑判断を大きく左右する生々しい現場課題であることが分かります。