マドリードのプラド美術館に収蔵されているヒエロニムス・ボスの代表作『快楽の園』は、まさに暗号の宝庫というにふさわしい。三連画の形式をとる本作の左翼パネルには、神がアダムとイヴを引き合わせるエデンの園が描かれている。しかし、祝福の場であるはずの楽園には、すでに怪しげなハイブリッド生物が蠢き、中央パネルへ向かうにつれて人々は奇怪な果実に群がり、果てしない欲望と快楽に溺れていく。
ボスが描いたこのカオスは、後のシュルレアリスムの先駆けとしても評価されている。罪人の尻に刻まれた楽譜や、巨大な耳に挟まれたナイフなど、ボスの絵には解読を拒むような象徴がちりばめられている。単なる伝統的な宗教画の枠を超え、人間の欲望が招く破滅を皮肉たっぷりに描いた異端の視線こそが、500年以上の時を経ても人々を惹きつけてやまない理由だ。