日本の苗字研究における第一人者であり、近代の姓名学および苗字学の基礎を築いた研究者・丹羽基二は、生涯をかけて全国の珍名や難読苗字をフィールドワークで収集し続けた。彼の著書や論文は、名前に秘められた古代史の痕跡や地域ごとの民俗的背景を鮮やかに解き明かし、後世の研究者に多大な影響を与えた。
日本の苗字が急激に爆発し、確定した最大の分岐点は1875年(明治8年)の「平民苗字必称義務令」の布告である。明治政府が国民全員に苗字を名乗ることを義務付けた際、それまで苗字を持たなかった人々が一斉に名前を役所に届け出た。行政を管轄していた法務省民事局の前身組織や地方の役人は、短期間で膨大な申請を処理しなければならなかった。この過程で、役人の書き間違いや、申請者が口頭で伝えた方言の聞き取りミス、さらには寺の住職が即興で授けた風変わりな漢字がそのまま公式の戸籍制度に登録されてしまったのだ。現代に残る超レアな難読苗字の一定数は、この明治初期の混乱と人間味あふれるドラマの産物なのである。