確定的な国際統一基準はいまだ確立途上にあるものの、臨床現場におけるトルソー症候群の診断基準は、以下の要素を総合的に照合して下されます。
- 頭部MRI検査(拡散強調画像)で、左右両側の半球や前後循環系など複数の血管支配域に散在する多発小梗塞巣(Three-territory sign)が認められる。
- 血液生化学検査で、著明なDダイマー上昇やトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇など過凝固所見がある。
- 頸動脈エコーや脳血管造影で責任病変となる有意な動脈硬化性狭窄がなく、経食道心エコーや24時間心電図でも心房細動などの不整脈が検出されない。
- 体内造影CTや腫瘍マーカー検査によって、活動性の悪性腫瘍(担がん状態)が確認される。
従来の一般的な脳梗塞とトルソー症候群では、治療法が根本から異なります。その相違点を比較した以下の表は、治療方針の決定において決定的な判断軸を提供します。
この表が示す通り、トルソー症候群の治療法における絶対的な要は「ヘパリン製剤」の投与です。一般的な脳梗塞に用いられるアスピリンなどの抗血小板薬は、がんによる爆発的なトロンビン生成の前にはほとんど歯が立ちません。また、経口抗凝固薬のワルファリンも、悪性腫瘍患者では効き目が不安定で再発抑制効果が極めて低いことが立証されています。
そのため、入院下で未分画ヘパリンの持続点滴を速やかに開始し、過剰な凝固を沈静化させます。維持期には在宅自己注射が可能な低分子ヘパリン(LMWH)や、適応が拡大しつつある直接経口抗凝固薬(DOAC)の慎重な導入が検討されますが、根本的な解決は「原因となっているがんそのものを化学療法や手術で抑え込むこと」以外にありません。