人類の歴史において、人肉食という絶対的なタブーが破られてきた背景には、大きく分けて4つの動機が存在します。単なる猟奇性だけでは説明できない、生存本能や文化的信念、精神病理がそこには存在しています。
第1の理由は「極限状態における飢餓サバイバル」です。海難事故や雪山での遭難、戦争による都市封鎖、大飢饉など、他に入手できる食料が一切存在しない極限環境において、人間は自らの生命を維持するために究極の選択を迫られます。この場合、道徳心や倫理観と生存本能が激しく衝突し、深い精神的苦痛を伴いながら決断が下されるケースがほとんどです。
第2の理由は「儀礼的・宗教的な動機」です。文化人類学では、共同体内の死者を敬愛の念から食す「内食人(エンド・カニバリズム)」と、外敵を捕食する「外食人(エグゾ・カニバリズム)」に分類されます。特に内食人においては、亡くなった親族の遺体を食べることでその魂や知識、力を自らの体内に宿し、死者を永遠に記憶し続けるという哀惜の儀式として行われていました。
第3の理由は「戦争における威嚇と復讐」です。古代から中世の戦闘において、討ち取った敵将の肉を食らうことで相手の勢力を心理的に圧倒し、恐怖を植え付ける心理戦として利用された歴史があります。また、激しい憎悪を晴らす究極の復讐手段としても機能しました。
第4の理由は「異常心理に基づく快楽や独占欲」です。現代のシリアルキラーに見られる病理であり、性的倒錯(パラフィリア)や強烈な支配欲、相手を完全に自分のものにしたいという病的な同化願望が動機となります。精神医学においては、自己と他者の境界が曖昧になり、対象を体内に取り込むことでしか完全な結合を感じられない重篤なパーソナリティ障害や精神疾患が指摘されています。