では、メディアがモデルとした「腕組み職人」の元祖は一体誰だったのでしょうか。ラーメン業界の歴史を紐解くと、象徴的な存在として必ず名が挙がるのが、「ラーメンの鬼」と呼ばれた『支那そばや』の創業者・故佐野実氏です。
佐野氏は1990年代後半から2000年代初頭、TBS系の人気バラエティ番組『ガチンコ!』の企画「ラーメン道」などで一世を風靡しました。白衣や黒シャツを身にまとい、眉間にしわを寄せて腕を組み、弟子たちや食材に対して一切の妥協を許さない姿は、日本中のお茶の間に強烈なインパクトを与えました。
それまでのラーメン店といえば、昭和の「街中華」に代表されるような、親しみやすい店主が出前もこなす庶民的な存在でした。しかし、佐野氏をはじめとする求道者的な職人の登場によって、ラーメンは「一杯の丼に人生を賭ける男のカルチャー」へと劇的なパラダイムシフトを遂げたのです。
このメディア露出を機に、「黒Tシャツ」「頭に巻いたタオル」「仁王立ちの腕組み」という3点セットが、独立開業を目指す若手店主たちの標準スタイル(アイコン)として急速に模倣されていきました。