「メガネ、メガネ…」と床を這いつくばるあのアイコニックな仕草は、純度100%のハプニングから生まれました。当時を知る劇場関係者や演芸プロデューサーの証言録によると、発端はなんばグランド花月(NGK)の前身である旧・なんば花月などの劇場出番中、激しいツッコミとアクションの最中に横山やすしの眼鏡が舞台床へ吹き飛んだことにあります。
実は、横山やすしの裸眼視力は0.02以下という極度の近視でした。レンズを失った瞬間、眼前の客席はおろか足元すら完全な白濁の世界と化します。舞台上で本気で狼狽したやすしは、相方の位置も客の反応も見えないまま、素の状態で床を手探りしながら「メガネ、メガネ……どこ行ったんや」と呟き続けました。
その鬼気迫る必死の形相と無防備な姿に、相方の西川きよしが瞬時に反応。「お父さん、足元! 足元見て!」と絶妙なトーンで観客の視線を誘導したところ、劇場全体が割れんばかりの爆笑に包まれました。ピンチを笑いに転換する芸人としての本能が、偶然の事故を「不朽の持ちネタ」へと変貌させた瞬間です。