多度大社の例祭「多度祭」(毎年5月開催)において、全国的に高い知名度と議論を呼んできたのが「上げ馬神事」です。約2メートルの崖(土壁)を騎手と馬が一気に駆け上がる勇壮な神事は、南北朝時代から続く農作物の豊凶を占う厳粛な儀礼として国指定無形民俗文化財にも指定されてきました。
しかし、近年の動物福祉意識の高まりや、馬の骨折・安楽死といった事故の発生を受け、伝統の在り方に社会的なメスが入りました。関係自治体、三重県教育委員会、専門家、そして地元保存会による度重なる協議の結果、「馬への過度な負担を排除し、人馬の命を最優先にする」という抜本的な見直しが決断されました。
見直しが施された現在の神事では、若武者姿の乗り手と馬が息を合わせて坂を駆け抜ける姿に対し、詰めかけた観客から温かい拍手と歓声が送られています。荒々しさを見世物にするのではなく、馬と人との絆を重んじる本来の神事の精神が蘇った形です。多度祭の時期に訪れる参拝者にとっても、胸を痛めることなく伝統文化の息吹を実感できる環境が整えられています。