東京都練馬区北町に店を構える「志村電機」は、半世紀以上にわたって地域住民の家電トラブルや電気工事を支えてきた老舗の地域電器店です。そんな昔ながらの電器店が、なぜサイフォンを操る極上カフェへと舵を切ったのか。その背景には、時代の変化に対応する事業承継の合理的な戦略と、店主の並々ならぬ珈琲愛が存在します。
大型家電量販店の台頭やネット通販の普及により、街の電器店が単に「家電製品を並べて売る」だけのモデルは平成後期から急速に厳しさを増していきました。多くの個人商店が後継者不足や売り上げ減少で姿を消す中、家業を継いだ2代目は「人が自然と集まり、世間話を交わしながら困りごとを相談できる昔ながらのコミュニティ空間」を再構築する手段として、自身が深く傾倒していたスペシャリティコーヒーの自家焙煎に着目しました。
「家電を買い替える頻度は数年に一度だが、美味しいコーヒーを飲む時間は日常の中にある。珈琲の香りに惹かれて集まった常連さんが、ふと『そういえばうちのエアコンの調子が悪くてね』と相談してくれる。これこそが令和の時代に必要な街の電器店の姿だった」と関係者は語ります。つまり、奇をてらった話題作りではなく、「地域インフラとしての電器店」の機能をアップデートし、持続可能なサードプレイス(第3の居場所)を創出するための必然的な進化だったのです。