ネット上の情報や簡易的な運指表だけを鵜呑みにしていると、重大な演奏上の罠に陥ることがあります。その最たるものが「トリル替え指による音程(ピッチ)の著しい劣化」です。
トリル用の特殊運指は、あくまで「指の運動性を極限まで高めるために、音響的な犠牲(トーンホールの位置の妥協)を払って設計された妥協点」です。通常の運指に比べて管長や倍音配列が変則的になるため、以下のようなピッチの狂いが構造的に生じます。
- ピッチが低くなりやすい音:中音域のC-Dトリル、第3オクターブのF#-G#トリルなど(管の抜けが不足し、音がぶら下がる)。
- ピッチが高くなりやすい音:第3オクターブのG-Aトリル、高音E-F#トリルなど(倍音が高めに共鳴し、キンキンとした上ずった音になりやすい)。
「替え指さえ覚えれば綺麗なトリルになる」というのは完全な誤解です。プロの現場では、替え指を使った瞬間に息のスピード(流速)を意図的に引き上げる、あるいは下唇のクッションを使って息の当たる角度をミクロン単位でコントロールするといった音程補正が無意識下で行われています。単に運指表をなぞるだけでなく、チューナーを視界に入れながら各トリル固有の音程のクセを把握することが、アンサンブルで濁らない美しい装飾音を生む絶対条件となります。