ネット上の掲示板やSNSでは、現場を離脱した元見習い生たちによる「地獄のような日々だった」という告白が後を絶ちません。警察犬訓練士のきつい現実とは一体どのようなものなのか。関係者の証言や手記から浮かび上がるのは、現代の労働法制から隔絶された「修行」という名の閉鎖空間です。
最大の実態は、警察犬訓練所の住み込み修行における生活リズムにあります。典型的な一日は、まだ日が昇らない早朝5時台の犬舎掃除から始まります。数十頭に及ぶ大型犬の糞尿を手作業で洗い流し、犬体をブラッシングし、給餌を行います。それだけで腰や腕の筋肉は悲鳴を上げますが、これはあくまで本業前の「準備」に過ぎません。
日中は炎天下の夏も凍てつく真冬も、広大な訓練グラウンドで長時間の服従訓練や追及訓練を反復します。犬が指示に従わなければ、訓練士自身の集中力の欠如を所長や先輩から激しく叱責されることも珍しくありません。夕方には再び犬舎の清掃と給餌、夜間は犬の体調管理や出産の見守り、日報作成が続き、床に就くのは深夜零時を回ることも日常茶飯事です。週に1日あるかどうかの休日は、疲労困憊で泥のように眠るだけで終わるというのが現場の偽らざる日常です。
さらに取材陣の調査では、脱落の最大の要因は「肉体的疲労」よりも「心理的幻滅」にあることが判明しています。幼い頃から「犬が好き」「犬の心を理解したい」と純粋な動機で門を叩いた若者が直面するのは、犬を厳格に支配・服従させるための毅然とした態度と、終わりの見えない雑用の日々です。愛玩動物としての「ペット」ではなく、極限の治安維持に従事する「使役犬」として犬を扱うギャップを受け止めきれず、わずか数ヶ月から1年足らずで荷物をまとめて去っていく若者が今も後を絶ちません。