瑞々しく生命力にあふれた断面を描くために欠かせないのが、農林水産省の果実分類や植物生理学でも解説されるいちご果肉断面構造の正確な把握です。私たちが普段「果肉」と呼んで食べている赤い部分は、植物学上は果実ではなく、花の根元が大きく膨らんだ「花托(かたく)」と呼ばれる組織にあたります。そして表面に並ぶ小さな粒々こそが、一つひとつの「痩果(そうか=真の果実)」です。
この生物学的な成り立ちを意識するだけで、描写の説得力は劇的に跳ね上がります。中心部にある白っぽい「髄(ずい)」から、表面の痩果に向かって細い維管束が放射状に伸びており、果肉はこの筋に沿って淡いグラデーションを描いています。初心者が陥りがちな「全体を一様な赤で塗りつぶし、真ん中を丸く白く抜くだけ」の描き方では、どうしても不自然な人工物に見えてしまうのです。
プロのイラストレーターが実践するいちご断面リアル描き方の基本手順は以下の通りです。
まずベースカラーとして、外縁部には鮮やかな真紅を置き、中心部に向かって徐々にサーモンピンクから乳白色へとフェードさせます。次に、中心から外側へ向けて走る繊維質な筋を不規則に薄く描き込みます。ここで完全に左右対称に描かず、わずかな揺らぎを持たせることが自然な質感を宿すコツです。
さらに仕上がりを分ける最大の難所が、いちごの種の描き方です。断面に現れる種は、すべて同じ角度を向いているわけではありません。中央付近の種は断面に対して垂直に近く見えますが、外周に近づくにつれて斜めに傾きます。種そのものは黄色から熟した黄緑色、外側は赤みを帯びたアンバーで表現し、種の周囲に「コンマ数ミリの窪み」と「果汁が溜まった極小のハイライト」を添えることで、水分をたっぷり含んだ圧倒的なシズル感が生まれます。