主人公・忍ハナ(三田佳子)は、東京・麻布の老舗酒屋「忍酒店」を夫の岩造(山崎努)と共に営んできた78歳の女性です。同世代の老人たちが「もう年なんだから」「どうせすぐ死ぬんだから」と口にして身なりを放棄し、みすぼらしい格好で惰性の余生を送る姿を、ハナは内心で強烈に見下していました。年齢を重ねても肌の手入れを怠らず、洗練された洋服を着こなし、美しく背筋を伸ばして生きることこそが、自身の誇りであり人生の勝利だと確信していたのです。
そんなハナを、夫の岩造は「お前は綺麗だ」「ハナの好きにすればいい」と長年穏やかに肯定し続けてきました。実直で寡黙、家族思いで浮いた噂一つなかった理想的な夫。子どもたちも独立し、穏やかで何不自由ない豊かな老後を享受していたハナでしたが、ある日突然の悲劇が襲います。岩造が自宅で倒れ、脳梗塞によりあっけなく息を引き取ってしまったのです。
伴侶を突然失った深い悲しみに暮れるハナ。しかし、涙が乾く暇もなく突きつけられたのは、手元に残された数々の不審な遺品でした。生前、通帳の管理や税金対策などをすべて夫任せにしていたハナは、四十九日を機に遺産の整理に着手します。そこで判明したのは、夫婦で築き上げてきたはずの「忍酒店」の土地・建物や多額の個人資産が、家族のまったくあずかり知らぬ場所へ秘密裏に移管されようとしていたという信じがたい事実でした。