ネット上の言論で頻繁に見られるのが、「病院に行くと緊張して血圧が150を超えるが、家では普通だから問題ない」という楽観論と、「健診で1回でも140を超えたら一生薬漬けにされる」という悲観論の2極化です。しかし、循環器専門医が最も恐れているのは、そのどちらでもありません。
医療現場で警戒されるのは、白衣高血圧と仮面高血圧という2つの隠れた病態です。
白衣高血圧は、白衣を着た医師の前で交感神経が昂ぶり、診察室でのみ一時的に血圧が跳ね上がる現象です。これは将来的な高血圧移行リスクを孕むものの、直ちに投薬治療を開始するケースは稀です。問題はもう一方の仮面高血圧です。
仮面高血圧とは、「健康診断や病院の診察室では120/75mmHgと極めて正常なのに、自宅や職場、あるいは早朝の時間帯にだけ140〜160mmHgを超える危険水域へ達している」状態を指します。とりわけ以下のタイプが潜伏しています。
- 早朝高血圧:起床直後に急激に血圧が上昇するタイプ。脳梗塞や心筋梗塞が午前中に多発する主因とされる。
- 夜間高血圧:睡眠時無呼吸症候群(SAS)や自律神経異常により、夜間就寝中に血圧が下がるはずの時間帯に高止まりするタイプ。
- ストレス下高血圧:職場環境や対人関係の過度な負荷により、日中の労働時間帯のみ血管に高圧がかかり続けるタイプ。
健診の「オールA」という結果に油断し、何年も脳血管を痛め続けた末に突然倒れるリスクは、仮面高血圧にこそ潜んでいます。1回のスポット測定で一喜一憂する行為が、いかに本質から外れているかを物語っています。