『金曜日の妻たちへ』が描いたもう一つの主役、それは東急田園都市線沿線の風景そのものでした。ロケ地となったたまプラーザや青葉台周辺は、当時「東急多摩田園都市」として急速に開発が進んでいた、日本中の中流サラリーマンが憧れる最新鋭のベッドタウンでした。
脚本を手掛けた名手・鎌田敏夫氏は、この「少し遠くても、緑あふれる郊外の一戸建て」という昭和後期のマイホーム神話に潜む空虚さを冷徹に見抜いていました。都心へ満員電車で通勤し、夜遅くまで企業戦士として働く夫たち。平日の昼間、美しく区画整理された静かな街に取り残される妻たち。白を基調としたシステムキッチン、広々としたリビング、庭の芝生――物質的な豊かさを手に入れたはずの核家族が、隣人同士の交流を深める中で、皮肉にも「満たされない心の隙間」に直面していく舞台設定は秀逸を極めました。
駅前のテニスコートで汗を流し、週末には家族ぐるみでホームパーティーを開く。欧米風の洗練されたライフスタイルが演出されればされるほど、その裏で交わされる秘密の視線や、夜の電話のベルが重く響きます。東急田園都市線というロケーションは、当時の日本人が目指した「近代的な幸福の到達点」であり、同時に「誰もが陥りかねない孤独の温床」でもあったのです。