火災現場は、消火活動による放水と熱破壊によって原形を留めていないことが大半です。そのカオスの中から出火箇所を特定するため、火災調査員は「科学の目」と「現場の経験則」をフル稼働させます。
発火源特定の基本となるのが、柱や壁に残された「炭化深度(木材の焦げた深さ)」の測定と、炎が上に向かって広がる際に描く「Vパターン(燃焼痕)」の解析です。燃焼時間が最も長く、熱量が高かった場所を数ミリ単位で割り出し、出火点を1点へと絞り込んでいきます。
近年では、現場での鑑識技術が急速に進化しています。特に2026年現在、社会問題化している小型モビリティやスマートフォン等に起因する「リチウムイオン電池火災」に対しては、現場にポータブルX線非破壊検査装置や赤外分光分析機を持ち込み、バッテリー内部の短絡(ショート)痕をその場で可視化する手法が普及してきました。
一方で、放火の疑いがある現場では、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いた微量炭化水素の検出が威力を発揮します。犯人が痕跡を消そうと灯油やガソリンを撒いて全焼させたとしても、コンクリートの微細な隙間や敷居の裏側に染み込んだわずか数ppmの油分を採取し、使用された促進剤の種類まで特定します。
ただし、現場の環境は過酷を極めます。鎮火直後の現場は有毒なシアン化水素や一酸化炭素、ダイオキシン類が漂い、足元には釘や割れたガラスが散乱。夏場は50度近い熱気、冬場は放水で凍りついた瓦礫をスコップと刷毛で何時間も掘り起こし続ける肉体労働です。「灰だらけになりながら数ミリの溶融痕(電気ショートの痕跡)を探す地道な作業こそが調査の本質」と現場の担当者は語ります。