絵の原点となったのは、明末清初を生きた文人・李漁の「伊園十便十二宜」である。都市の喧騒を離れ、郊外の別荘で隠遁生活を送る喜びをユーモラスに綴った漢詩集だ。注文主はこれを翻案し、大雅に「十便」、蕪村に「十宜」を描かせた。
興味深いのは、便利と風流という、一見すると相反するふたつの価値観が見事に調和している点だ。「耕便(耕すのに便利)」「釣便(魚釣りに便利)」といった生活の実利を大雅が快活に祝祭すれば、「宜春(春にふさわしい)」「宜涼(涼をとるのによい)」といった季節の情緒を蕪村がしっとりと受け止める。生きるための営みと、世界を愛でる感性。双方が揃って初めて、人間の暮らしは豊かになるのだと、250年前の画家たちは無言で語りかけてくる。