安倍元首相の評価を語る上で、最も国内と国外で温度差が大きい領域が外交です。外務省関係者や海外主要シンクタンクがこぞって指摘するのは、彼が打ち出した構想力とパーソナルディプロマシーの卓越性です。
特に特筆すべきは、現在ではアメリカ、欧州、オーストラリアなど主要先進国の標準的な対中東アジア戦略となった「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というグランドデザインを、世界で最初に提示したのが安倍晋三本人であったという事実です。また、日米豪印の4カ国対話枠組み(QUAD)の基礎を築いた功績は、国際政治学の場でも「日本が戦後初めて世界の地政学的アジェンダセッティングを行った瞬間」として極めて高く位置づけられています。
ドナルド・トランプ元米大統領との個人的な信頼関係構築をはじめ、インドのモディ首相、豪州の歴代首相らと結んだ親密なパートナーシップは、国際社会における日本の外交発言力を飛躍的に向上させました。2022年の逝去時、インド政府が国全体で喪に服す「公休」を宣言し、世界中から現職・元職を含む200を超える国・地域・国際機関の代表が哀悼の意を捧げた光景は、彼が国際秩序に残した影響力の大きさを如実に物語っています。
国内では「集団的自衛権の行使容認は戦争への道だ」と激しい街頭抗議が巻き起こった安全保障関連法も、ワシントンや同盟諸国の目には「日米同盟を片務的なものから双務的な防衛協力へと進化させ、地域の抑止力を担保した極めて現実的な判断」と映っていました。この「国内世論の平和主義」と「国際社会のリアリズム」の乖離こそが、評価のねじれを象徴しています。