新宿伊勢丹本館のフロアへ足を踏み入れた瞬間、来訪者が覚える独特の高揚感の正体は、計算し尽くされた「空間の演出力」と「圧倒的なキュレーション力」にあります。単に商品を並べて売る従来の百貨店モデルから脱却し、全館をひとつの巨大な「ファッションミュージアム」に見立てる手法は、今なお進化を続けています。
大手シンクタンクの流通アナリストは、専門誌の取材に対して次のように指摘しています。
「他の商業施設がテナント任せの定期借家契約へシフトするなか、三越伊勢丹のバイヤー陣は自らの目利きによる編集売場を頑なに死守してきた。世界初・日本初の先行販売を伊勢丹に集中させるブランド側の信頼関係こそが、競合他社には真似のできない参入障壁となっている」
顧客心理の面でも、伊勢丹での買い物は「承認欲求」と「自己投資欲求」を同時に満たす装置として機能しています。上質な黒子に徹するスタイリスト(販売員)の接客水準、館内に漂う洗練されたフレグランスの香り、そして象徴的なタータンチェックの紙袋を手にする体験そのものが、購買体験を劇的なエンターテインメントへと昇華させているのです。