警視庁捜査本部が当初着目したのは、軍事的な特殊知識を持つ人物の関与だった。使用された毒物は一般的な青酸カリではなく、遅効性の特殊毒物「アセトンシアンヒドリン」だった可能性が浮上する。これは旧陸軍登戸研究所や旧陸軍731部隊といった、秘密兵器・細菌兵器の研究機関でしか製造・運用し得ない兵器級の化合物だった。
捜査の手はかつて731部隊に所属していた関係者へと伸びかけた。しかし、ここで強大な障壁が立ちはだかる。占領軍であるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)からの「旧陸軍関係者への捜査中止」要請だ。冷戦構造が緊迫する中、アメリカは731部隊が保有していた人体実験データや生物兵器の知識と引き換えに、部隊幹部らの戦争責任を免責したとされる。2026年に公開が進んだ米公文書館の最新機密文書からも、捜査線上に浮かんだ旧軍関係者のリストをGHQが把握しつつ、捜査を意図的に逸らさせた生々しいやり取りが裏付けられている。