局所で増殖した悪性腫瘍が最も恐れられる理由は、原発巣を離れて全身へと広がる「転移」の能力を持つためです。がん細胞は周囲の組織をつなぐ接着因子(カドヘリンなど)を解除し、組織の結合組織を溶かす酵素を分泌して基底膜を突破します。これを「浸潤」と呼びます。
浸潤したがん細胞は、新設された脆弱な血管やリンパ管の壁をすり抜けて体内循環へ侵入。免疫細胞の攻撃を免れて生き残ったごく一部の細胞が、肺、肝臓、骨、脳といった遠隔臓器の微小血管に引っかかり、再び血管外へ脱出して新たな病巣を形成します。
インターネット上では時折「がん細胞の自然治癒」を謳う情報が見られますが、医学的な見地から言えば、目に見える大きさ(1センチ以上=約10億個の細胞)に育った進行がんが、標準治療なしに自然消滅する確率は極めて稀です。免疫力向上を意識した生活改善は予防や再発防止の基盤として重要ですが、確定診断された病巣に対しては、科学的根拠に基づいた医療介入が不可欠となります。