インターネット上の掲示板やアダルト系キュレーションサイトにおいて、「白蛇抄では本番行為(実際の挿入)が行われていたのではないか」という過激な憶測が定期的に再浮上します。しかし、映画製作現場の証言や映画史の検証から導き出される結論は、「完全なる虚構・都市伝説」です。
当時メガホンを取った伊藤俊也監督は、綿密なコンテと冷徹なカット割りで知られる徹底した完全主義者でした。『白蛇抄』の濡れ場シーンにおいて重視されたのは、下品な露出ではなく、雪深い越前の寺という閉鎖空間で狂い咲く人間の「業」と「情念」の映像美です。撮影現場は照明技師、撮影監督、録音技師など数十人の屈強なプロフェッショナルが張り詰めた空気の中でミリ単位の動きを追う極限状態であり、偶発的な本番行為などが入り込む余地は一切ありません。
では、なぜこのような噂が執拗に囁かれ続けるのか。その要因は、小柳ルミ子の肉体美と演技があまりにも真に迫っていた点にあります。幼少期から宝塚で徹底的に鍛え上げられたしなやかな体幹と、女性の持つ情念の揺らぎを見事に表現した表情筋のコントロール。杉本哲太演じる修行僧の荒々しい衝動を受け止める所作のあまりの生々しさが、観る者に「演技の領域を超えている」という強烈な錯覚を植え付けた結果といえます。