なぜ人間は、好意を抱く相手と視線を合わせるとスムーズに言葉を紡げなくなるのでしょうか。恋愛心理学および認知神経科学の知見からアプローチすると、そこには脳のワーキングメモリ(作業記憶)の飽和という明確なメカニズムが存在します。
京都大学などの研究チームが発表した認知科学実験でも示されている通り、アイコンタクトを行う際、人間の脳内では「相手の表情や意図を読み取る」視覚・社会認知処理に膨大なリソースが割かれます。相手が「好きな人」である場合、ドーパミンやアドレナリンが急激に分泌され、心拍数の上昇と扁桃体の過剰な興奮が引き起こされます。
このとき脳内では以下のような情報処理が瞬時に衝突しています。
「相手は今、自分をどう思っているのか」「変な顔に見えていないか」「好意がバレて拒絶されたらどうしよう」——こうした自己言及的な思考と相手の表情解析が同時に走る結果、言語中枢(ブローカ野など)へ割り振るべき認知リソースが枯渇します。つまり、素直におしゃべりできないのはコミュニケーション能力の不足ではなく、脳が相手に極限まで集中している証拠にほかなりません。