一連の騒動を機に、ファンの間では「生歌で声が出なくなっているのではないか」「歌唱力が劣化した」という議論が過熱しました。この変化の背景には、彼女が生涯背負い続けている身体的特徴と経年変化があります。
1990年のデビュー当時、7オクターブとも称された音域と人間離れした「ホイッスルボイス」は世界を震撼させました。しかし、マライア本人が長年公言している通り、彼女の声帯には幼少期から声帯結節(ポリープ状のタコのようなもの)が存在しています。彼女の代名詞であるハスキーな囁き声と突き抜ける高音は、この声帯結節の隙間をコントロールするという、極めて特殊かつ繊細な技術によって生み出されていました。
しかし、30年以上にわたるワールドツアーや多忙なレコーディング生活により、声帯の柔軟性は徐々に失われていきます。加齢に伴う筋肉の衰えやホルモンバランスの変化も重なり、2010年代半ば頃からは全盛期のような超高音のロングトーンを安定して維持することが困難になっていきました。往年の完璧なハイトーンを期待する聴衆のプレッシャーと、思い通りにコントロールできない現実のギャップが、ステージ上でのプレボーカル依存を生む引き金となったのは間違いありません。