本拠地である歌舞伎座の歴史において、七代目芝翫の名は特別な響きを持つ。大向こうからかかる「成駒屋!」の声に応え、花道で見せる見得の決まりの良さ。松竹株式会社が保管する膨大な舞台記録写真や映像資料には、昭和・平成の歌舞伎黄金期を牽引した名優たちの丁々発止のやり取りが生々しく刻まれている。
十七代目中村勘三郎、十三代目片岡仁左衛門、十二代目市川團十郎といった伝説的立役たちの隣には、常に七代目芝翫の凛とした姿があった。相手役を引き立てながら、決して己の存在感を失わない絶妙の立ち居振る舞い。座組全体を調和させ、舞台全体の格調を引き上げる力において、彼の右に出る者はいなかった。
劇界関係者が口を揃えるのは、その舞台裏での温厚な人柄と、舞台に上がった時の鬼気迫る集中力とのギャップである。松竹のアーカイヴに残る数々の肉声インタビューでも、芸に対する真摯な言葉の端々に、歌舞伎という伝統の未来を案じる深い愛情が滲み出ている。