『夜霧のハウスマヌカン』の背景を理解する上で欠かせないのが、1980年代前半から中盤にかけて日本全国を巻き込んだDC(デザイナーズ&キャラクターズ)ブランドブームです。コムデギャルソン、ヨウジヤマモト、BIGI、ニコルといったドメスティックブランドが若者のステータスシンボルとなり、PARCOや丸井などのファッションビルには開店前から長蛇の列ができました。
その中心に君臨していたのが「ハウスマヌカン」と呼ばれる女性店員たちでした。フランス語の「マヌカン(マネキン)」に由来し、ブランドの最新コレクションを自ら着用して店頭に立つ姿は、当時の女子中高生にとって最先端のミューズであり、絶大な憧れの対象だったのです。
しかし、秋元康氏が手掛けた歌詞が暴き出したのは、その華麗な表舞台とは正反対の過酷な日常でした。「夜霧の〜」というムード歌謡のパロディ的アプローチを用いながら、「給料の半分以上を自社ブランドの服代に引かれ、夜はワンルームでカップラーメンをすする」という、見栄と経済的困窮の板挟みに苦しむ女性たちの哀愁をリアルに活写しました。流行の最前線にいる者が実は最も搾取されているという資本主義のアイロニーを突いた構造こそ、この楽曲が単なるコミックソングに終わらず、時代を象徴する記録として語り継がれる最大の要因です。