哲学的な脱構築の波は、エンターテインメントやポップカルチャーの現場にも大きな影響を与えている。その象徴的なエポックとなったのが、名作映画『ダークナイト』だ。
作中、主人公のバットマンと宿敵ジョーカーの衝突は、単純な勧善懲悪の構図を完全に踏み越えている。社会の秩序を維持しようとする執念と、それを混沌へ叩き落とそうとする破壊衝動の不気味な対峙。ここでの「悪」の真の対極は、単なる道徳的な善というよりは、社会構造の「秩序」や市民の「平穏」に他ならない。近年トレンドとなっているダークファンタジー作品群でも、絶対的な正義を振りかざす主人公よりも、悪役が抱く切実な動機や悲劇的な背景を描く作品が圧倒的な支持を集めている。