インターネット上のQ&AサイトやSNSでは、「耳に虫が入ったら耳元にスマホのライトを当てれば自ら出てくる」「水を流し込めば浮いてくる」といった俗説が広く拡散されています。しかし、これらの民間療法には医学的・生物学的に重大な盲点が存在します。
まず、耳に光を当てる対処法の真相について検証します。光に向かって飛ぶ習性(正の走光性)を持つのは、夏の街灯に集まるような蛾や一部の甲虫、ユスリカなどに限られます。一方で、人家の室内や暗がりを好むコバエの一部やゴキブリの幼虫、チャタテムシなどは、光を嫌って暗闇へと逃げ込む「負の走光性」を持っています。つまり、耳元をライトで照らす行為は、侵入した虫の種類によっては「光から逃れるために鼓膜の奥へさらに潜り込ませる」という逆効果を招く危険性を孕んでいます。
次に「水を入れる」方法ですが、これも推奨されません。水道水を入れると、もともと耳垢が溜まっていた場合に水分を吸って膨張し、虫を耳垢ごと奥に密閉してしまうリスクがあります。また、塩素や雑菌を含んだ水が傷ついた外耳道に入ると感染症を引き起こす引き金にもなります。
唯一、緊急避難的な民間療法として医学書にも記載があるのが、オリーブオイルやベビーオイル、サラダ油などの刺激の少ない植物油・鉱物油を滴下する方法です。油で耳腔を満たすことで虫の気門(呼吸器官)を塞ぎ、速やかに窒息死させて暴れるのを止める効果があります。ただし、これには「過去に中耳炎を患ったことがない」「鼓膜に穴が開いていない」という絶対条件が必要です。鼓膜に穴がある状態で油を注ぐと、中耳炎を急速に悪化させるためです。