なぜ戸塚氏は、ここまで極端な指導法に固執したのでしょうか。その背景には、彼のユニークな経歴と、独自に組み立てた「本能論」が存在します。
1940年生まれの戸塚氏は、名古屋大学工学部を卒業した理系のエリートでした。1975年には単独太平洋横断レースで世界最速記録(当時)を樹立し、一躍国民的英雄となったトップヨットマンです。海洋という、一歩間違えれば命を落とす大自然の極限状態を生き抜いた実体験が、彼の人生観を決定づけました。
1976年に設立された戸塚ヨットスクールで彼が提唱したのが、「大脳優位の教育から、脳幹(本能)を鍛える教育への転換」でした。戸塚氏のロジックは明快でした。
「理性や論理を司る大脳ばかりを過保護に育てた結果、人間本来の生命力や気力を司る脳幹が退化している。海の上で恐怖と対峙させ、体罰という強い刺激を与えることでしか、眠っている本能は覚醒しない」
医学的・科学的な客観的根拠には乏しいものの、当時は高度経済成長のひずみとして校内暴力や家庭内暴力、登校拒否が社会問題化していた時代でした。手を焼いた親たちや一部の文化人がこの理論に救いを求め、スクールへ子供を預ける親が後を絶たなかったのです。