インターネット上の掲示板やSNS、動画配信サイトにおいて、巨福呂坂切通しは時折「鎌倉屈指の心霊スポット」として語られるケースが見受けられます。「落武者の霊が現れる」「夜間に不気味な足音が響く」といった怪談がまことしやかに囁かれていますが、歴史的史料や客観的事実を精査する限り、特定の悲劇的事件や祟りにまつわる公的な記録は存在しません。
ではなぜ、このような心霊の噂が定着してしまったのでしょうか。社会心理学および民俗学の観点から分析すると、主に3つの認知的要因が浮かび上がります。
第1に、「立入禁止の廃道」という閉鎖空間が持つ心理的暗黒効果です。フェンスで遮断され人の気配が途絶えた空間に対し、人間の心理は無意識に「隠されたタブー」や「危険な非日常」を投影しやすくなります。
第2に、鎌倉という土地が持つ「合戦と武家社会」のイメージ結合です。新田義貞の鎌倉攻めなど血塗られた歴史の記憶が、薄暗い山道と短絡的に結び付けられ、怪談の格好のプロットとして消費されてきました。
第3に、後述する明治期の巨福呂坂洞門(落石防護用の覆道)の老朽化した景観が、視覚的な不気味さを増幅させた点です。結論として、心霊の噂は歴史的事実に基づくものではなく、物理的な立入禁止措置と視覚的陰影が生み出した集団的フォークロア(都市伝説)に過ぎません。