学術的には明確な水深基準が存在するものの、行政機関や法制度の現場に目を向けると、事態は少々複雑になります。多くの人が「国の公的機関がすべて厳密に線引きしている」と思いがちですが、実際には法律上の厳格な「池」と「湖」の境界定義は存在しません。
日本の地図作成を担う国土交通省の機関において、国土地理院による湖沼の基準では、天然・人工を問わず陸地にある静止した水塊を総称して「湖沼(こしょう)」という包括的な用語で扱っています。地形図に記載する名称(固有名詞)については、学術的測定に基づいて国が命名するのではなく、地元で古くから呼ばれてきた慣習名をそのまま採用するという方針が徹底されています。
また、水質保全を管轄する行政施策を見ても同様の傾向があります。水質汚濁防止法や湖沼水質保全特別措置法(湖沼法)における環境省湖沼水質基準では、琵琶湖や霞ヶ浦、印旛沼など、水質保全が必要な対象を「湖沼」として一括指定しています。行政の実務においては、それが「湖」であるか「池」であるかを区別する科学的議論よりも、貯水量や滞留時間、水質保全のための発生負荷量といった実利的なデータが最優先されるのが実態です。