腸脛靭帯炎の根本的な原因を理解せずに患部だけを手当てしても、早期回復は望めません。まずは膝の外側で何が起きているのか、その構造的背景を正確に把握する必要があります。
腸脛靭帯とは、骨盤の外側にある大腿筋膜張筋および大臀筋から伸び、太ももの外側を通って脛(すね)の骨(脛骨外側のガーディ結節)へと付着する強靭な帯状の腱組織です。膝を曲げ伸ばしする際、この靭帯は太ももの骨の末端にある「大腿骨外側上顆」という骨の出っ張りの上を前後にスライドするように通過します。
腸脛靭帯炎で走ると痛い理由は、着地時に膝が約30度屈曲した瞬間、この大腿骨外側上顆と腸脛靭帯の間で強い摩擦および圧迫ストレスが加わるためです。走行中は1キロあたりおよそ600〜800回の着地衝撃が発生します。靭帯の緊張が高まった状態で走行を続けると、骨と靭帯の間にある脂肪体(インフラパテラ・ファットパッドなど)や靭帯自体に微細な断裂と炎症が生じ、鋭い痛みを引き起こすのです。
見逃してはならないのが腸脛靭帯炎の初期症状です。発症初期には以下のような特徴的なサインが現れます。
・走り始めは何ともないが、3〜5km付近から膝外側に重だるい違和感や張りが出る
・走るのをやめて歩行に切り替えると、数分で違和感が消失する
・階段を下りるとき、あるいは椅子から立ち上がるときに膝外側にピリッとした痛みが走る
・正座や深く膝を曲げる動作で太もも外側が強く突っ張る
多くのランナーは、この初期段階で「走れるから大丈夫」とトレーニングを継続してしまいます。しかし、違和感が痛みに変わった時点で組織内ではすでに摩擦による炎症が慢性化へと向かっており、結果として腸脛靭帯炎の原因と予防に対する初動の遅れを招いてしまうのです。