ネット上のまとめ記事や個人の体験談ブログで頻繁に見かける民間療法の筆頭が、「耳の中にニキビができたら、綿棒にオロナインをたっぷり取って塗り込むと治る」という言説です。しかし、この行為には医学的な観点から極めて重大な落とし穴が存在します。
オロナインH軟膏の主成分である「クロルヘキシジングルコン酸塩」は優れた殺菌作用を持ち、軽度のすり傷や皮膚表面の吹き出物には有用です。しかし、耳の穴の内部に関しては添付文書の禁忌事項や耳鼻咽喉科領域の警告を冷静に読み解く必要があります。
最大のリスクは、本人が気づいていない鼓膜の微小な傷や穿孔(穴)の存在です。クロルヘキシジン製剤は、内耳(聴覚や平衡感覚を司る器官)に対する毒性(内耳毒性)が報告されており、万が一鼓膜の奥の中耳や内耳に薬剤が迷入した場合、不可逆的な感音難聴や激しいめまいを引き起こす危険性を排除できません。
さらに、市販の油性軟膏基剤(ワセリン等)を狭い外耳道の中に厚塗りすることで、耳の換気機能が完全に遮断されます。軟膏によって湿度が保たれた暗黒の閉鎖空間は、細菌以上に厄介な「真菌(カビ)」にとっての楽園と化します。抗生剤や抗菌軟膏を塗り続けた結果、細菌は死滅したものの真菌が異常増殖し、激しい掻痒感と悪臭を伴う「外耳道真菌症」へと移行して治療が泥沼化する事例が、医療機関で後を絶ちません。