映画『君の名は。』において、物語の成否を分ける最大の難関は「男女の心と身体が入れ替わる」という設定をいかに説得力を持って演じさせるかという点にありました。中身が三葉になった瀧、そして中身が瀧になった三葉。性別と感情が交錯する極めて高度な芝居が求められた現場で、監督はどのような基準で主役を選んだのでしょうか。
立花瀧役に起用された神木隆之介は、新海監督自身が構想段階から強く熱望したキャスティングでした。スタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』や『借りぐらしのアリエッティ』などで幼少期から卓越した声の演技を披露してきた神木は、自身も筋金新海作品のファンであることを公言しています。監督が神木を指名した決定的な理由は、「確かな技術力」と「可愛らしさを表現できる男性の声」でした。劇中、三葉が入った瀧が見せるフェミニンな内股の仕草や、「あいつ、女子力高すぎ…」と周囲に言わしめる仕草を、神木は高音のトーンと息遣いだけで見事に表現してみせました。
一方、ヒロインの宮水三葉を演じた上白石萌音の抜擢は、数百人規模に及ぶ大規模な一般・プロ合同オーディションによるものです。当時のオーディションテープを審査した際、新海監督と音響監督は、上白石が一声発した瞬間に「三葉がここにいる」と直感したと述懐しています。過剰にアニメ的な誇張をするわけでもなく、実写のボソボソとした発声でもない、澄み切った声の粒立ちと豊かな感情の起伏。思春期の鬱屈と、未来へ向かって駆け出す生命力を等身大で表現できる才能として、彼女の起用は満場一致で決定しました。
さらに、瀧が憧れるバイト先の先輩・奥寺ミキ役には長澤まさみが抜擢されました。新海監督は「誰もが好きにならずにいられない色気と、どこか掴みどころのない上品さ」を求めてオファーを出したと明かしています。実際にアフレコ現場で長澤が吹き込んだ声は、高校生の瀧が背伸びして背中を追いたくなる大人の女性像そのものであり、作品にほろ苦いリアリティをもたらしました。