東北地方の山岳地帯に伝わる伝統狩猟集団「マタギ」。彼らが熊狩りの相棒として命を預けたのが、古くから受け継がれてきた「マタギ犬(マタギイヌ)」の血統です。
かつての秋田犬の祖先である「秋田マタギ犬」は、現在のような大型の愛玩犬種ではなく、筋肉質で引き締まった中型犬でした。雪深い奥羽山脈を縦横無尽に駆け巡り、嗅覚と聴覚を研ぎ澄まして冬眠明けの熊の巣穴(穴熊)や足跡を追尾する能力に長けていました。一方、甲斐国(山梨県)の険しい南アルプス周辺で独自の発達を遂げた「甲斐犬」は、岩場を軽快に飛び移る驚異的な跳躍力と足腰の強さを誇り、猪や熊を追う万能の山岳猟犬として名を馳せました。
マタギ犬の評判を決定づけたのは、単なる凶暴さではなく並外れた知性と沈着冷静な判断力です。無駄吠えをせず風下から音もなく獲物に詰め寄り、主人の射撃ラインを塞ぐことなく熊を牽制し続ける阿吽の呼吸こそが、集団狩猟の成功を左右しました。