矢掛の歴史的価値を語るうえで絶対に外せないのが、矢掛本陣石井家住宅と旧矢掛脇本陣髙草家住宅の存在です。参勤交代の制度下で全国に整備された宿場町ですが、本陣と脇本陣の双方が当時のまま完全な姿で残され、共に国指定重要文化財となっているのは日本全国で矢掛宿場町ただ一箇所しかありません。
石井家住宅は敷地面積約1,000坪におよび、主屋をはじめ御成門、座敷棟、酒造蔵など実に10棟以上の建造物で構成されています。かつて薩摩藩主の島津斉彬や、篤姫が江戸へ輿入れする際に宿泊した記録が克明に残されており、大名しか通ることを許されなかった「御成門」や、一段高く設えられた「上段の間」に佇むと、当時の大名行列の緊張感が肌に伝わってきます。
一方の髙草家住宅は、金融業で財を成した豪商の屋敷であり、主屋や内蔵に施された意匠の数々は、格式を重視した本陣とは異なる「町人文化の粋と繁栄」を如実に物語っています。現地ガイドの証言によると、「本陣の公的な格式と、脇本陣の民間経済の力、この両輪が同一街道上で現存しているからこそ、江戸の社会構造そのものを立体的に体感できる」とのこと。両館を見比べながら歩くことこそ、矢掛探訪の真髄といえます。