志茂田景樹氏の魅力は、その類まれな振れ幅の大きいキャリアにあります。中央大学法学部を卒業後、すぐに文壇へ進んだわけではありません。法律事務所職員をはじめ、保険調査員、探偵、塾講師、週刊誌記者など、多種多様な職業を泥臭く経験しました。28歳で作家を志し、長い下積み時代を経て1980年に『黄色い牙』で第83回直木賞を受賞。北の大地で生きるマタギと野獣の闘いを圧倒的な筆致で描き、本格派ハードボイルド・冒険小説作家として高い評価を確立しました。
その後、バブル期から平成初期にかけて見せた大胆なイメージチェンジは、日本中に強烈なインパクトを与えました。ピンクや緑に染め上げた髪、花柄のタイツに身を包んだ姿は、一見すると奇抜な道化に見えましたが、本人は「世間の常識や固定観念に縛られる必要はない」という強烈なメッセージを体現していました。重厚な文学とポップカルチャーの境界線を軽やかに飛び越えたその姿勢は、現代におけるインフルエンサーの先駆けとも評されています。