民間が運営する同規模の歴史的近代建築であれば、通常800円から1,500円程度の拝観料・入館料が設定されていても不思議ではありません。現に、全国各地の重要文化財クラスの洋館や復元建築の多くは有料公開を基本としています。それにもかかわらず、名古屋市市政資料館が一般公開を開始した1989年(平成元年)以来、一貫して入館無料を維持している背景には、地方自治法および公文書館法に基づく明確な行政上の根拠が存在します。
名古屋市の行政文書管理規則および関係部局の公式見解によると、この施設の本質は「観光テーマパーク」ではなく、名古屋市の歴史公文書を適正に保存し、市民の閲覧に供するための名古屋市公式の公文書館です。日本国憲法が保障する知る権利や行政の説明責任を果たすインフラとして機能しているため、市民や来訪者に対して門戸を無償で開放することが制度上の大前提となっています。
さらに、司法近代化のモニュメントである歴史的遺構そのものを「生きた教科書」として社会教育に役立てるという名古屋市の文化財保護政策が合致した結果、無料という破格の利便性が担保されています。税金によって維持管理される公的資産の還元モデルとして、全国の近代建築利活用事例の中でも極めて成功した形態といえます。